トレードのシナリオは未来を当てる予想ではなく、「こう動いたら、こう対応する」という分岐表として作る方が使いやすくなります。

チャートを見ていると、どうしても一つの方向へ考えが寄ります。「ここから上がりそう」と思った瞬間から、上昇を支持する情報だけが目に入りやすくなります。反対方向へ動いたときに慌てるのは、分析が足りないというより、最初から一つの未来しか用意していないことが原因です。

そこで、エントリー前に上昇・下降・レンジの三つへ分けます。三つ全部を同じ確率だと考える必要はありません。どの動きになれば自分の前提が変わるのかを、ポジションを持つ前に決めておくのが目的です。

まず「上がると思う」を行動条件へ変える

「上目線」「買いたい」だけでは、実際に価格が動いたときの判断に使えません。

必要なのは、何が起きたら買いを検討できるのかです。たとえば、意識している価格帯を一度上抜け、その後の戻りでもその価格帯を明確に下回らない。あるいは、上位足で見ていた安値を割らずに反転し、短い時間軸で買いの形ができる。ここまで書くと、単なる予想から条件に変わります。

逆に、条件が満たされていないうちは何もしません。「上がりそうだから先に入る」と「決めた条件が出たから入る」は別の行動です。

シナリオを作る意味は、チャートを見る前の自分と、値動きを見た後の自分で判断基準を変えにくくすることにあります。

上昇・下降・レンジの三つで十分なことが多い

分岐を細かく作りすぎると、今度はどのシナリオに当てはまるのか分からなくなります。最初は三つで十分です。

上昇シナリオでは、どこを超えたら上方向の動きを評価するかを決めます。下降シナリオでは、どこを割ったら売り側を考えるかを決めます。どちらも成立しない場合がレンジです。

この「どちらでもない」を最初から用意しておくのが重要です。相場は毎回きれいに方向を出すわけではありません。上も下も条件を満たさないなら、方向が出るまで待つこと自体がシナリオになります。

レンジを用意していないと、何も起きていない時間にも上か下かを無理に決めたくなります。

各シナリオには、四つだけ書く

シナリオを長文にする必要はありません。最低限、次の四つがあれば後から確認できます。

  • 成立条件:何が起きたらそのシナリオを見るか
  • 行動条件:どの形になったらエントリーを検討するか
  • 無効化条件:何が起きたらその考えを捨てるか
  • 見送り条件:成立していても取引しない状況は何か

特に無効化条件は先に書いておきます。

買いを考えているときに価格が下がると、「もう少し待てば戻るかもしれない」と条件を後から緩めたくなります。エントリー前に「ここを崩したら上昇シナリオは終了」と決めておけば、少なくとも分析の前提と願望を分けやすくなります。

損切り位置とシナリオの無効化が完全に同じとは限りませんが、どちらもポジションを持つ前に考えておく方が整理しやすいです。

仮の価格帯A・Bで考えると分かりやすい

具体的な通貨ペアではなく、二つの価格帯だけで考えてみます。

上に価格帯A、下に価格帯Bがあり、その間を推移しているとします。

上昇シナリオは、Aを上抜けたあとにA付近まで戻り、そこを再び下へ抜けず反発する形です。下降シナリオは逆で、Bを下抜けたあとにB付近まで戻り、上へ戻せず再び下落する形です。

AもBも抜けず、その間を往復しているならレンジとして扱います。

ここで大切なのは、Aを抜けた瞬間に必ず買うわけではないことです。「Aを抜けた」という成立条件と、「戻り方を確認してから検討する」という行動条件を分けています。

この二段階があると、ブレイクしたように見えてすぐ元の範囲へ戻る動きにも対応しやすくなります。

A・Bの例を、同じ項目で見比べる

以下は実在する通貨ペアや現在価格を使わない、記入方法の例です。A・Bの具体的な範囲と、どの時間足の終値で判定するかは、観察する前に自分で決めます。

分岐成立を確認する条件次に待つ動き考えを取り下げる条件
上昇Aを上抜けるA付近まで戻ったあと、再び下へ抜けず反発する決めた判定方法でAより下へ戻る
下降Bを下抜けるB付近まで戻ったあと、上へ戻せず下落する決めた判定方法でBより上へ戻る
レンジA・Bの間に留まる方向が出るまで見送るAかBを抜け、別の分岐の確認が必要になる

上抜けや下抜けは、それだけで売買する合図ではありません。二列目の成立を確認してから、三列目の動きを待ちます。待つ間に四列目へ当てはまれば、その計画を取り下げます。

記入例では、レンジ中央にいるときや、事前に決めた重要イベント前の時間帯を見送りにします。成立条件が出ていても、見送り条件に重なるなら取引しません。

見送り条件まで書くと、無理なエントリーが減る

エントリー条件ばかり書くと、チャートを開いた以上はどこかで取引しないといけない気分になります。

そこで、先に見送り条件も書きます。

たとえば、重要価格帯の真ん中で上下どちらにも距離がない、想定する損切り幅に対して狙える値幅が小さい、大きな経済イベントの直前で値動きが不安定になりやすい、といった状況です。

見送り条件は「怖いから入らない」という感情とは別です。事前に決めた条件へ当てはまったので、予定通り何もしないという判断です。

取引しない日があっても、シナリオ通りならルール違反ではありません。

損失の上限は、エントリー後に考えない

シナリオがきれいでも、損失を無制限に受け入れていいわけではありません。

ポジションを持つ前に、どの条件で撤退するかと、許容できる損失の上限を決めます。取引量を考える場合も、「自信があるから大きくする」ではなく、事前に決めたリスク管理の範囲から外れないことを優先します。

シナリオ分析と資金管理は別の仕事です。相場観が合っているかどうかと、一回の損失が大きすぎないかどうかを混ぜない方が振り返りやすくなります。

どれだけ丁寧に分析しても、想定と逆へ動くことはあります。だからこそ、外れたときに何をするかまでがトレード計画です。

トレード後は、勝敗より「計画との差」を一行残す

振り返りで「勝ったから良かった」「負けたから悪かった」だけを見ると、たまたまの結果と判断の質を分けられません。

短くてもいいので、事前シナリオと実際の行動の差を残します。

たとえば「上抜け後の戻りを待つ予定だったが、抜けた直後に追いかけた」「下降シナリオの無効化条件まで待たず、怖くなって早く切った」「レンジ想定だったので条件が出るまで見送れた」といった記録です。

勝ったトレードにもルール違反はあります。負けたトレードにも、計画通りなら残す価値のある判断があります。

シナリオを毎回書く本当の利点は、予想精度を競うことではなく、自分の判断を後から比較できる形にすることです。

使うテンプレートは短い方が続く

毎回のメモは、次の程度でも十分です。

  1. 上位足の方向感
  2. 重要価格帯
  3. 上昇シナリオ
  4. 下降シナリオ
  5. レンジ・見送り条件
  6. 無効化と撤退条件
  7. 終了後の一行メモ

これを同じ順番で残すと、数週間後に見返したとき「どこで判断が崩れやすいか」を比較しやすくなります。

シナリオは未来を固定するためのものではありません。未来が分岐したときに、自分の行動を先に用意しておくためのものです。

※FXには元本を失うリスクがあります。本記事は一般的な情報整理・振り返り方法の例であり、特定の通貨ペアの売買や利益を推奨・保証するものではありません。

FXは、預けた証拠金を上回る損失が生じる場合もあります。取引の仕組みとリスクは、金融庁の説明でも確認できます。